スポーツあれこれ by 星野恭子

2015日本パラサイクリング選手権トラック大会で力走する藤井美穂選手=2015年4月11日/伊豆ベロドローム/星野恭子撮影

パラサイクリング日本選手権にみた、
オリ・パラ同時開催の可能性

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まって以降、パラリンピックの注目度を高め、集客をはかる方法として、「オリンピックと同時開催を」という案をよく耳にするようになりました。実現までには参加規模や運営面の調整などクリアすべき課題が多々あります。でも、最近、パラサイクリングのトラック競技としては国内最高峰の大会、「日本選手権・トラック大会」を取材して、一般競技とパラスポーツの同時開催の可能性について考えさせられました。

※写真上:2015日本パラサイクリング選手権トラック大会で力走する藤井美穂選手=2015年4月11日/伊豆ベロドローム/星野恭子撮影

 同大会は4月11日に静岡県伊豆市の伊豆ベロドロームで行われ、パラリンピアン2名を含む、計6選手が出場していましたが、実は一般競技の「全日本自転車競技選手権」と同時開催されていたのです。日本パラサイクリング連盟(JPCF)によれば、同連盟が2012年4月に設立されて以降、13年は全日本選手権にオープン参加、そして14年からは正式にパラ競技の公式戦として全日本選手権との同時開催となり、今年はその2回目でした。

 特に驚いたのは、たとえばタイムトライアルの決勝は女子エリート、女子パラ、男子エリート、男子パラと一般とパラのレースが交互に行われていたことです。私はこれまで、さまざまなパラスポーツを長く取材していますが、公式戦としてはかなり珍しいです。「どんな感じだろう」と興味をもって見ましたが、運営はスムーズで、違和感も全くありませんでした。JPCFによれば、もっと以前からパラ選手が一般の大会に出場することもあったそうで、そう大変なことではないようです。

 というのも、自転車競技の場合は国際自転車競技連盟がパラの部も統括しており、ルールも一般の部とほぼ同じ。審判も兼任でき、使う機材もほぼ一緒なので、パラだからと特別な配慮もほとんど必要ないのです。違いといえば、出場選手の少ないパラの部は予選なしの一発決勝になることが多いとか、パラ特有の視覚障害クラスでタンデム車(二人乗り自転車)を使い、パイロットと呼ばれる健常選手がサポートするといったくらいです。

 JPCFによれば、同時開催は競技人口の少ないパラ部門にとって会場確保など運営面でのメリットが高いほか、選手からも一般のトップ選手を間近に見ることができ、「レース前の調整など参考になる」「高い競技レベルが刺激になる」などの声が聞かれました。また逆に、片足での自転車操作や両脚義足での高いパフォーマンスなどが一般選手への刺激にもなれたら、といった声もありました。

他の競技でも

 このように、一般の部とパラの部を同じ大会で実施している競技は他にもあります。たとえば、テニス。こちらも国際テニス連盟が車いすテニスも統括しており、世界4大大会でも長年、男子と女子、車いすの部が当たり前のように一緒に行われています。選手間の交流もあり、たとえば、錦織圭選手のブレイク以前に、「日本から世界的な選手が出ないのはなぜか」と日本の記者に聞かれたトッププロのロジャー・フェデラー選手が、「日本には“クニエダ”がいるじゃないか」と、車いすプレイヤーとしてすでに世界的な活躍を見せていた国枝慎吾選手の名を挙げた話は有名です。国枝選手はその後、4大大会制覇やパラリンピック2連覇を達成し、現在もなおトッププロであり続けています。

 トライアスロンも国際トライアスロン連合がすべてを統括しています。そもそもトライアスロンが誕生した1980年代はパラの部は未整備で、障害のある選手も一般競技者の一人として各地の大会で受け入れられてきたという歴史もあり、現在では世界選手権をはじめ、多くの大会でパラの部が併催されています。統括団体が同じというのは同時開催の大きな要因と言えそうです。

 また、ルールや使用する用具がほぼ同じという競技も同時開催は可能なように思います。たとえば、視覚障害者柔道。「両選手が組んだ状態から試合をはじめる」ということ以外は一般の柔道と同じルールです。障害の程度によるクラス分けでなく、体重別で試合が行われる点も大きいでしょう。

 卓球も、肢体不自由のクラスなら立位も車いすの部も一般の卓球と同じ卓球台やラケットなどを使います。車いすバスケットボールも車いすに乗って行う以外は一般のバスケットボールとほぼ同じです。このように一般とパラの部でルールや用具などに大きな違いがない競技については、統括団体間の調整は必要にしても、1競技で行う世界選手権などでパラの部を組み入れることは物理的には可能でしょう。

 日本でも昨年、パラスポーツが厚生労働省から文部科学省に移管されたり、またスポーツ庁の発足も近づき、パラスポーツと一般競技間の壁は確実に低くなっています。これを追い風に、多くの競技で一般とパラの部の交流がもっと進むことを願います。大会の同時開催はそのひとつの有意義な試みではないかと、今回、自転車の大会を見て思いました。

(文・写真:星野恭子/2015年4月18日付/ノーボーダー)

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